東京地方裁判所 昭和39年(行ウ)57号 判決 1967年12月20日
原告
山口宮治
右訴訟代理人
遠藤誠
被告
東京陸運局長
水野節比古
右指定代理人
高橋正
(ほか四名)
主文
一、原告の第一次請求を棄却する。
二、被告が原告に対し、昭和三六年八月三一日付六一東陸自旅二第三三八七号をもつてした原告の同年二月七日付一般乗用旅客自動車運送事業の免許申請を却下した処分を取り消す。
三、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事 実<省略>
理由
第一本件第一次処分の取消しを求める請求(第一次請求)について。
一、被告がその管轄区域内のタクシーの営業免許について運輸大臣から権限の委任を受けていること、原告が昭和三四年八月三一日被告に対し、道路運送法三条二項三号の一般乗用旅客自動車運送事業(いわゆる個人タクシー事業)の免許申請をしたところ、被告は申請事案を公示し、原告の聴聞を実施したうえ、昭和三五年七月二日、原告の申請が同法六条一項三号ないし五号に適合しないことを理由として、東陸自旅二第四一五二号をもつて右申請を却下したこと、これに対し、原告は同年八月三一日運輸大臣に訴願したが、昭和三九年四月六日付自旅第九七五号の一の三五をもつて右訴願棄却の裁決があり、この裁決書が同年四月二五日原告に送達されたこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二、被告は、右却下処分の具体的な理由として、当時被告が免許申請の許否を決定するため、道路運送法六条一項所定の免許基準を具体化して内部的に定めていた審査基準のうち、(イ)車庫前面道路幅員が四米以上あること(ただし、付近に四米以上のオープン道路があり、当該前面道路がこれに接続している場合には、前面道路幅員が三・五米以上四米未満であつても、当該前面道路幅員が四米あるものとみなす)、(ロ)車庫の確保が確実であること、(ハ)概ね三〇万円以上の資金の確保が確実であること、(ニ)同居家族があること、という条件に適合しなかつたと主張するので、まず、右の車庫前面道路幅員の点について検討する。
(一) <証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 被告は昭和三四年八月自動車運送協議会の答申を経て一般乗用旅客自動車二、八〇〇両の増車を決定し、その旨公示し、このうちで個人タクシーのための割当数を九八三輛と定め、同年九月一〇日までに六、六三〇件の個人タクシー事業の免許申請を受理した(この点は争いがない)が、右申請を受理した後、東京陸運局自動車部旅客課第二課において申請人に対する聴聞を行うに先立ち、課長はじめ約一〇名の係長が協議して、聴聞等による調査結果にもとづき免許の許否を決定するための審査基準として、別表の審査基準欄記載のような基準事項を設定し(ただし、昭和三四年一一月頃まではまだ別表のような文書としては完成されていなかつた)、これによつて免許の許否を決定することとした。右審査基準によれば、車庫前面道路の幅員は四米以上と定められている(別表の第一審査基準10)が、現実には四米未満の道路が少くないところから、右の基準を緩和する措置(補助基準)として、付近に四米以上のオープン道路があり、当該前面道路がこれに接続している場合には、前面道路幅員が三・五米以上あれば適格として取り扱うことができるものとされ、なお、右の車庫前面道路の幅員とは、車庫入口の前面道路の幅員で車輛の通行可能な部分を指すものと解されていた。
2 原告は、免許申請にあたり、世田谷区喜多見町三、四一六番宅地のうち道路に面した六坪を所有者佐久間七郎から車庫用地として賃借することの承諾を得ていたが、現場の状況はほぼ別紙図面(一)のとおりであり、申請書添付の車庫配置見取図(甲第一号証の一四)によると、別紙図面(一)の「門」が車庫入口であるように表示されていた。この申請にもとづき、被告は、原告の計画する車庫が審査基準に適合するかどうかを調査するため、昭和三五年四月二一日被告の係官中川昇が現地に赴き、右見取図に表示された車庫入口前面の道路幅員を実測したところ、三米であると認めたので、この調査結果にもとづき、被告は、原告の車庫前面道路の幅員が審査基準に適合しないものと判定し、これを理由の一つとして、原告の申請を却下した。
3 その後裁判所が昭和四一年九月二二日に被告の右調査当時とまつたく変わりのない現地の状況を検証したところ、別紙図面(二)に記載するとおり、同図面の「門」前面の道路幅員そのものは三・八二米あるが、右道路の一方の端には立木や切株があるため、右の「門」から北方にあるオープン道路へ出入する車輛の通行可能幅員は三・〇五米であり、ほかに付近にオープン道路はない。<反証―排斥>
右認定事実によると、被告は昭和三四年度の個人タクシー事業の免許申請を審査するにあたり、当初から文書化してはいなかつたけれども、あらかじめ内部的に具体的な審査基準を確定し、これによつて免許の許否を決定したことが明らかであり、原告の申請は少くとも車庫前面道路幅員の点において右審査基準に適合しなかつたものといわなければならない。
(二) ところで、原告は、多数の免許申請人の中から少数特定の者を選択して免許の許否を決定するにあたつては、審査に先立ちあらかじめ具体的な審査基準を設定しているだけでなく、その基準内容を一般に公表し、かつ申請人に告知するとともに、聴聞を担当する係官が右基準内容及びこれの適用上必要とされる事項を十分に理解したうえで聴聞を行い、事実を認定するのでなければ、その審査手続は、不公正な、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが尤もであると認められるような手続になると主張する。しかしながら、この点は、問題となる基準の内容の如何にもよることであつて、少くとも車庫前面の道路幅員が何米であるかというような比較的簡明で形式的判定に適する事項に関するものである場合には、当該基準内容を公表、告知せず、また申請人の聴聞の際担当係官が基準内容等を理解していなかつたとしても、それだけで直ちに、右基準を適用した審査手続が公正を欠き違法なものになると解するのは相当でない。けだし、原告の主張するところは、結局、審査手続の公正を期し、事実認定の面における行政庁の独断を排除するためには、なによりもまず、自分自身のこととして最もよく事情を知つている申請人に、基準を適用するうえで必要な事項について主張と証拠を提出する機会を与えるべきであるという点にその合理的意義が認められるのであるが、道路幅員の認定のごときことは、これについて申請人に主張、立証をなさしめることが認定の適正を確保するうえに直接役立つものとは考えられないし、また右の主張、立証をまつて認定するのでなければその認定の過誤・独断を疑うのが尤もであるような性質の事柄でもないからであつて、要は、認定の正確を期するのに適切な調査方法によつたものであるかぎり、その調査結果が客観的に正当なものであれば足りるというべきである。ところで、本件においては、被告が原告の申請した車庫の計画をもとにして現地を調査、実測し、その調査結果にもとづき右車庫入口の前面道路幅員が基準に適合しないと判定したものであることは前認定のとおりであり、この調査方法及び調査結果に特段の欠陥があつたことを認めるべき証拠はない。もつとも、証人佐久間七郎の証言と原告本人の供述の趣旨からすれば、原告は車庫入口の位置を前記のとおり定めて申請したが、もし車庫前面道路幅員に関する基準内容を知つていたならば、車庫入口を前記「門」よりもつと北寄りに設けることによつて被告のいう補助基準に適合することができたはずであり、申請書添付の図面にもそのように表示したであろうことは推測に難くないけれども、競願者の中から限られた適格者を選択する行政庁としては、申請人に対しできるだけ基準に適合する計画を立てて申請するように配慮し、または申請された計画のうち基準に適合しない部分の変更を促すなどの積極的な責務があるとまでいうことはできず、これをしないで、申請された計画内容にもとづきその申請の許否を決定したからといつて、これを行政庁の不公正あるいは独断であると非難するのは当らない。したがつて、原告の申請について車庫前面道路幅員に関する基準を適用した本件審査手続が、不公正な、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが尤もな手続にあたる旨の原告の主張は採用しがたい。
(三) 次に、原告は、車庫前面道路幅員に関する右審査基準は、その内容がまつたく合理性を欠くものであるから、これを適用した本件第一次処分は原告の職業選択の自由を不当に侵害したものであると主張する。しかし、道路運送法六条一項三号にいう「事業の遂行上適切な計画を有する」かどうかの判断にあたつては、道路交通の安全・円滑をはかる見地から、少くとも車庫入口前面の道路幅員を斟酌することは当然法の許容するところとみるべきであり、所要幅員をどの程度と定めるかについても被告の合理的な裁量に任されているものと解されるところ、<証拠>によれば、被告は、車庫入口前面の道路における車輛のすれちがいと歩行者の通行を確保するため、車輛二台分の車幅と歩行者の通行のための余裕とを加えて一応必要幅員を四米とする基本基準を定めたが、更に道路事情の実際を考慮して、付近にオープン道路がある場合であれば、右基準を若干緩和しても車輛のすれちがい等にさほど支障がないであろうという判断から、幅員三・五米以上のものも適格として扱うこととしたものであることが認められるのであつて、これに対する原告の反論を考慮しても、なお、これらの基準が明らかに不合理であり、被告に許された裁量の限界を超えたものであると認めることはできない。
(四) 原告は、更に、右審査基準の内容が合理的であるとしても、被告は同基準に適合しない他の申請に対しては免許を与えた事例があるから、基準の適用において不平等であると主張する。そこで、原告の指摘する事例(これらがいずれも昭和三四、五年頃被告から個人タクシー事業の免許を得たものであることは争いがない。)について調べてみると、まず訴外須藤穣の場合は、<証拠>によると、昭和三四年一一月二〇日の被告の現地調査による同人の車庫前面道路幅員は三・五米となつているが、昭和四一年九月二二日の当裁判所の検証(第一回)の結果によれば三・四二米であり(この間道路状況に変化があつたことの証拠はない)、訴外村山正延、同江俣光雄の場合は、その車庫前面道路幅員がいずれも四米以上あつたことは<証拠>に徴し明らかであつて、<反証>は右認定を妨げるものではなく、他にこれを左右するに足りる証拠はない。以上の認定事実によると、右三者のうち、須藤については、免許当時その車庫前面道路幅員が三・五米以上あつたかどうかに疑問がないではないが、当裁判所の検証の結果にしたがつても、その不足するところはわずか八糎にすぎず、このような場合には、そのことだけで直ちに不適格とせずに、他の条件をも総合勘案したうえで基準に適合するかどうかを判断するのが妥当であることは、本件第二次処分について後に述べるとおりであるから、基準幅員に約五〇糎も不足する原告の場合をこれと同列に取り扱わなかつたことをもつて、直ちに基準の適用が不平等であるということはできない。
三 以上に判断したとおり、原告の本件申請は、道路運送法六条一項の趣旨にしたがい適法に定立された車庫前面道路幅員に関する審査基準に適合せず、この点から同条一項三号の要件を充たしていないと認められるものであつて、被告がこの基準を適用して右申請を不適格と判断した審査手続には原告の主張するような違法はない。したがつて、これを理由の一として原告の申請を却下した本件第一次処分は、他の却下理由の有無を審究するまでもなく、正当であるといわなければならない。
よつて、右第一次処分の取消しを求める原告の第一次請求は失当である。
第二本件第二次処分の取消しを求める請求(第二次請求)について。
一 本案前の主張について
被告は、本件第二次処分の取消しを求める訴えが原告の昭和四〇年八月三〇日付「訴状を整理する書面」により追加的に変更されたものと解すべきことを前提として、右訴えの変更自体が許されないものであり、また出訴期間経過後の訴えの追加的変更でもあるから、いずれにしても右訴えは不適法であると主張する。ところで、本件記録によれば、原告は、昭和三九年七月二三日付訴状により本件第一次処分の取消しを求めて出訴した(ただし、右訴状では、運輸大臣を被告とし、請求の趣旨として第一次処分に対する訴願棄却裁決の取消しを求めるように記載されているが、その全趣旨からすれば原処分を争つていることが看取される。)が、同年一〇月一五日に本件第二次処分に対する訴願棄却裁決の送達を受けた後、同月二三日右訴訟の被告を東京陸運局長に変更する旨の申立てをし、次いで同月三〇日東京陸運局長を被告とする同日付「訴状」と題する書面を当裁判所に提出したこと(右被告変更の申立ては同年一一月五日許可された)、この「訴状」と題する書面によると、請求の趣旨としては、原訴状と同様、第一次処分に対する訴願棄却裁決の取消しを求める旨が記載されているが、他方、その請求原因欄には、第一次処分を争うとともに、第二次処分に対する訴願棄却裁決が送達されたこと並びにこれが違法不当であるから救済を求める旨が記載されており、第二次処分をも争う意思であることが窺われること、この段階まで原告は訴訟代理人を選任せずみずから訴訟を追行していたが、その後昭和四〇年一月一〇日に訴訟代理人を選任し、同代理人は、同年七月七日の本件第七回口頭弁論期日において右「訴状」と題する書面を陳述した後、同年八月三〇日付「訴状を整理する書面」により本判決事実摘示欄記載のとおり請求の趣旨を整理したことが認められる。
以上の経過によれば、法律知識にうとい原告本人としては、第一次処分に対する取消訴訟が係属中に、同じ目的による申請を却下した第二次処分に対する訴願棄却裁決の送達を受けたことにより、当然第二次処分をも争うという意思のもとに前記「訴状」と題する書面を提出したものであつて、これを、右第二次処分の取消しを求める新訴提起の趣旨をも含むものと解しうる余地がないわけではなく、その訴状としての記載要件の不備は、その後に原告訴訟代理人が提出した「訴状を整理する書面」によつて補正されたとみることができる(この訴えと旧訴とを併合する明示的な決定がなされなかつたことは右のように解することを妨げるものではない)。そして、右の「訴状」と題する書面が第二次処分に対する訴願棄却裁決の送達の日から起算して三箇月の出訴期間内に提出されたことは前記のところから明らかであるから、結局、本件第二次処分の取消しを求める訴えは適法であるといわなければならない。よつて、以上と異なる前提に立つ被告の前記本案前の主張は採用することができない。
二、本案について。
(一) 原告が、管轄区域内のタクシーの営業免許について運輸大臣から権限の委任を受けている被告に対し、昭和三六年二月七日、前同様の個人タクシー事業の免許申請をしたところ、被告は、申請事案の公示、原告の聴聞を実施したうえ、同年八月三一日、道路運送法六条一項三号及び四号に適合しないことを理由として、六一東陸自旅二第三三八七号をもつて右申請を却下したこと、これに対し、原告は同年一一月二一日運輸大臣に訴願したが、昭和三九年八月二一日付自旅第三七八号をもつて右訴願を棄却され、この裁決書が同年一〇月一五日原告に送達されたこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
(二) 被告の主張する右却下処分の具体的理由は、原告の申請が被告の審査基準のうち、「車庫前面道路の幅員は原則として四米以上とする。ただし、四米以上の幅員の道路が車庫の付近にあるときは、右前面道路幅員が四米未満三・五米以上であつても適格とする場合がある。」との条件に適合しなかつたので道路運送法六条一項三号の要件を欠くという一点である。
そこで、この点について検討するのに、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 被告は、昭和三六年度においても前二年に引続いて個人タクシー事業を免許することとなつたが、同年二月頃から右免許申請の許否を決定するための審査基準について改めて検討を加えた結果、従来のものとほぼ同一内容の審査基準を文書化し、これによつて免許の許否を決定することとした。右審査基準によると、車庫前面道路幅員については被告の前記主張のとおりに定められているが、かような基準を設けた理由は、車庫前面の道路としては一応二台の車輛のすれちがい可能な幅員が必要であるとの考慮のもとに、一台の車幅を一・六ないし一・七米とし、これに車輛制限令四条、五条等によつて必要とされる〇・五米の余裕と更に若干の余裕を見込んで原則を四米以上とするとともに、先に述べた補助基準の趣旨をとりいれ、付近にオープン道路がある三・五米以上の道路につき但書によつて右原則の緩和をはかつたものであり、この但書の場合には、車庫前面からオープン道路にいたるまでの道路状況等を更に斟酌したうえで適格かどうかを判定することとされていた。
2 原告は、免許申請にあたり、世田谷区喜多見町三、四一八番宅地のうち道路に面した五坪を所有者佐久間七郎から車庫用地として賃借することの承諾を得ていたが、現場の状況はほぼ別紙図面(二)のとおりであつた。この申請にもとづき、被告は、原告の計画する車庫が審査基準に適合するかどうかを調査するため、昭和三六年六月二四日被告の係官宮崎信夫が現地に赴き調査、実測したところ、車庫前面の道路は約二〇〇米先においてオープン道路に接続し、その幅員は三・三米であるが、道路の一方が畑に接しており、その路肩が軟弱であると認めたので、車輛の通行可能幅員を三米と判定し、この調査結果にもとづき、被告は、原告の車庫前面道路の幅員が審査基準に適合しないものと認めて原告の申請を却下した。
3 しかし、右道路の状況が被告の右調査当時とほとんど変わりのない昭和四一年九月二二日及び昭和四二年六月二〇日は当裁判所が現地を検証したところ、道路とその付近の土地・垣根等との位置関係は別紙図面(二)に記載するとおりであつて、道路とこれに接する畑とはほぼ同じ高さであり、道路の畑寄りの部分もとくに車輛の通行に支障があるほど軟弱ではなく、車輛の通行可能な道路幅員は広い部分で三・七米、最も狭い部分で三・四八米であつた。なお、世田谷区長発行の昭和四〇年一月二八日付証明書(成立に争いのない甲第九号証)によれば、右三、四一八番から三、四二一番までの道路は車輛制限令三条二項に該当する道路で、その幅員は三・五米とされている。
このように認めることができる。<反証―排斥>以上の事実によれば、原告の車庫前面道路の幅員について被告のした現地調査の結果は正確でなかつたといわざるを得ず、その幅員は、当裁判所の検証時の状況とほぼ同じく、広い部分で三・七米、狭い部分で三・四八米程度であつたと認めるのが相当である。
(三) ところで、道路運送法六条一項各号は、一般自動車運送事業の免許をする場合の基準を定めているが、右各号の定める免許基準の内容はきわめて抽象的・多義的であるばかりでなく、その免許の許否は、免許の性質をどのように解するにせよ、国民の基本的人権の一である職業選択の自由にかかわるものであるから、多くの補助職員を指揮して免許申請の審査を行う行政庁が、多数の免許申請人の中から個別的・具体的事実関係にもとづき少数特定の者を選択して適正に免許の許否を決定するためには、内部的にもせよ、前記各号の趣旨をある程度具体化した審査基準を設けて、その公正かつ合理的な適用によつて法定の免許基準に適合するかどうかを判定すべきことが同法の要請するところであるといわなければならない。したがつて右の行政庁がなんらかの審査基準を設けて事案を処理する場合に、その基準の定立や適用において、基準設定の本来の趣旨を逸脱した不公正あるいは不合理があれば、かかる手続によつて行われた処分は、違法たるを免れないというべきである。
そこで、本件をみるのに、被告が道路運送法六条一項三号の免許基準を具体化したものとして車庫前面道路幅員に関する審査基準を設けて審査にあたつたことは前記のとおりであるが、右審査基準但書において幅員三・五米以上でも適格とする場合があると定めた理由は、要するに、車庫前面における車輛のすれちがいなどに支障を生ぜしめないという実際上の必要から、付近にオープン道路がある場合であれば幅員三・五米程度でも差し支えないとの判断にもとづくものであり、その合理性自体を否定することはできないけれども、決して合目的的配慮を容れる余地のないほどに硬直・絶対な基準とすべきものではない。このような基準の趣旨から考えると、原告の車庫前面道路は、オープン道路に通じ、その幅員は最狭部においてすら基準幅員に不足することわずか二糎にすぎず、しかもその道路の一方の側がほぼ同じ高さの畑に接しているため、車輛のすれちがいなどの際にある程度の余裕をとることもできる状況であるから、これを幅員三・五米ある道路に準じて取り扱つたとしても、右基準設定の本旨に反するものでないことは明らかであつて、かような場合に、幅員三・五米以上ならば当然考慮すべきこととされている右道路からオープン道路にいたるまでの道路状況等をまつたく考慮することなく、道路幅員が三・五米に二糎不足であるということだけで、直ちに前記基準但書にも適合しないとすることは、あまりにも硬直・形式的にすぎ、とうてい右基準の合理的適用ということはできない。
しかるに、被告は、原告の車庫前面道路の幅員が三米であるとの調査結果にもとづいたため、オープン道路にいたるまでの道路状況等を全然斟酌することなく原告の申請を不適格と判断したものであることは、被告の主張及び証人西村英一の証言から明白であり、もし被告が右の道路幅員につき事実を誤認せず、かつ上記の趣旨にしたがい他の条件等を正当に総合勘案して、基準但書に適合するかどうかを判断したならば、原告の申請について本件処分と異なる結論に達する可能性がまつたくなかつたとはいえないのである(他に右申請を却下すべき理由のあつたことについては被告の主張、立証しないところである)。
してみると、原告の申請を却下した本件第二次処分は、車庫前面道路幅員に関する審査基準の適用につき、事実を誤認し、ひいて右誤認がなければ当然斟酌すべき事実を斟酌しないで基準を適用したことにより、結局において裁量権の行使を誤つたものとして、違法であるといわなければならない。よつて、右第二次処分は、原告の主張するその他の違法事由について判断するまでもなく、取消しを免れない。
第三結論
以上の理由により、本件第一次処分の取消しを求める原告の第一次請求はこれを棄却し、第二次処分の取消しを求める第二次請求を認容することとし(なお、第二次処分の無効確認を求める第三次請求は、第二次請求が認容されない場合の予備的なものであるから、これについては判断しない)、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。(緒方節郎 小木曾競 佐藤繁)
別表<省略>
図面(一)(二)<省略>